
AMBIVALENCE
幼少期から不器用な性格で、周囲との円滑なコミュニケーションを築けずにいた「わたし」。内弁慶で身近な存在に甘えてしまう脆さを抱えながらも、これまでは「普通」という名の平穏な日常をなんとか維持してきた。しかし、中学校生活の中で経験したかけがえのないものの喪失が、平穏を根底から覆す。大きな失望と動揺、そして蓄積された疲労によって、これまで必死に守り続けてきた自分自身の殻は無残に砕け散り、人生の歯車は大きく狂い始めていく。理想と現実が複雑に交錯する境界線上で、大切な何かを失った精神的負荷は、やがて統合失調症という形となって現れた。成人を迎えてからもなお、社会や自己との折り合いをつけられず、出口の見えない苦悩の渦中で足掻き続ける日々。暗闇の中で道を探し求め、迷い惑う一人の女性の姿を描き出す。本作は統合失調症という病と向き合う個人の内面を綴ったフィクションであり、作中に登場する人物や団体、組織などの名称はすべて架空のものです。揺れ動く感情の機微を丁寧に追った、再生への模索を問う物語。
章
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章 2
煌々と輝く月光に身をあずける日もある。
あれから20年弱…
慌ただしくてどこか息苦しい日々が続いて…夜空の星にさえ気づかないことは今も変わらない。
子どもの頃、折角「星が綺麗だ」と教えてくれる人が隣にいても横顔の方に興味が注がれた。
一緒に住んでいた男の子は『兄』だった。
会話はお互いに一方的で成立しないし、よく喧嘩もした。
置き手紙のように置かれた夕焼けの写真を見て
夕焼けの美しさを知った。
夏休みの工作の写真たてにそっと捧げた。
そんな記憶はもう僅かでまどろんでいく…。歳月を伸ばしただけのわたしの古びた殻。
兄は、17の時に真っ白な人形となった。
何度触っても足りないくらい別れを惜しんだ。
そうして
わたしはまた呟くようになる
『友達に似ても非なる人の名前を』
兄と学校と…は、わたしにいわゆる健常者という夢を見させた。
長い夢の終わりに、叫ぶのは
「大事にしてきたとか、されてきたとか、唯一無二の存在だったとか」
他に伝える言葉もなく、話し足りないことは虚空に舞って喉が切れ切れになって音にもならない。
月を背にして今日も眠る。