婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた の小説カバー

婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた

8.6 / 10.0
長年尽くした秋葉健人に裏切られ、婚約破棄を決意した松浦苑実。周囲の非難に晒された彼女が次に選んだのは、千億の資産を持つ藤原晴樹との電撃結婚だった。SNSを騒がせる二人の関係に、傲慢な元婚約者は復讐を疑い焦りを見せる。大富豪の権力を背景に、苑実が新たな人生を切り拓く姿を描くbillionaireジャンルの注目作。人気のromance novelとして、愛と野心が交錯するドラマチックな展開が見どころ。webnovelで話題の本作は、自立を目指す女性の変革と逆転の物語です。
「婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた」のあらすじ
松浦苑実は、長年にわたり秋葉健人に献身的な愛を捧げてきた。彼の好みに合わせてタトゥーを入れ、身を寄せる場所がない苦境も耐え忍んできたが、その思いは報われなかった。濡れ衣を着せられ周囲から孤立した際も、健人は助けるどころか冷酷に突き放し、幼なじみの女性に謝罪するよう彼女に強要したのである。あまりに無慈悲な仕打ちに、苑実の心はついに限界を迎えた。彼女は迷うことなく婚約を解消し、健人のもとを去る決断を下す。次に彼女が選んだ道は、千億もの資産を継承する大富豪、藤原晴樹との電撃結婚だった。二人の結婚届受理証明書がSNSで拡散され世間を騒がせる中、余裕を失った健人は「復讐のために藤原家の権力を利用しているだけだ」と晴樹を挑発する。しかし、晴樹は愛おしそうに苑実を抱き寄せると、「それがどうした。俺には彼女を支えるための金も権力も十分にある」と冷ややかに言い放つのだった。どん底に突き落とされた令嬢が、世界屈指の富豪の寵愛を受けて新たな人生を歩み出す、逆転のロマンスが幕を開ける。
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婚約破棄された直後、世界一の大富豪に結婚届を出させられた 第1章

江都、市立病院のVIP病室。

ベッドに横たわる松浦苑実は、タブレットに映る動画を嘲るような眼差しで見つめていた。

彼女は高熱で入院しているというのに、名ばかりの婚約者は別の女とホテルで密会している。

動画の背景はホテルの廊下で、照明はやや薄暗かった。

それでも、苑実は一目で分かった。 秋葉健人の腕に抱かれている女が、異母妹の松浦綾乃であると。

タブレットの電源を落とし、苑実は病室に入ってきた人物に視線を向け、淡々とした表情で言った。 「もし私が刺青を入れなかったら?」

苑実の反応に、光は少しも驚かなかった。 もし自分が今、苑実の立場だったら、到底受け入れられないだろう。

婚約者が別の女と密会したことを、婚約者に隠蔽させるなどという話があるだろうか。

秋葉グループはまさに上昇気流に乗っている重要な時期にある。 健人はその跡取りであり、このタイミングでこのような動画を撮られたことは、すでに秋葉グループの株価に影響を及ぼしていた。

この件を鎮静化させる最も簡単な方法は、松浦苑実という正真正銘の婚約者を表舞台に出すことだった。

動画に映る綾乃は顔こそ映っていなかったが、腰の刺青は露わになっていた。

その刺青は、健人の名前の頭文字だった。

健人のアシスタントである光が病院に来たのは、健人の意向を伝えるためだった。 苑実に、綾乃と全く同じ刺青を腰に入れるよう命じるために。

そうすれば、ネット上の動画はすぐに鎮静化されるだろう。

光は苑実を同情的な眼差しで見たが、それでも低い声で口を開いた。 「松浦さん、これは秋葉社長のご意向です。 もしご協力いただけないとなると、おばあ様の来週の治療が、少し難しくなるかもしれませんので……」

光はそれ以上言葉を続けなかったが、苑実には彼の言いたいことが分かった。

いや、健人の言いたいことだった。

彼は、彼女の祖母を人質に取っているのだ。

祖母は毎週一度の治療を必要としていた。 江都中を探しても、天才医師の川崎聡以外に治療できる者はいなかった。

苑実は、健人がどうやって聡を説得したのか知らなかった。

だが、健人が祖母を人質に取った以上、彼女に抵抗する術はなかった。

数分後、苑実はベッドにうつ伏せになった。

傍らに座っていた刺青師は、すでに必要な道具を準備していた。

苑実は特殊な体質で、刺青師が用意した麻酔薬は全く効かなかった。

刺青が終わる頃には、苑実の病衣は汗でびっしょりになり、元々血の気のなかった顔は紙のように白くなっていた。

「松浦さん、失礼します」

ベッドの上の人物にそう告げると、光は前に進み出て、苑実の腰に彫られたばかりの模様を写真に収めた。

向こうからの返信を受け取ると、光は安堵のため息をついた。

傍らの刺青師に視線を送り、合図を送ると、刺青師はすぐに病室を後にした。

「松浦さん、どうぞごゆっくりお休みください。 夜には運転手が迎えに来ます」

そう言い終えると、ベッドの上の人物が何か反応するのを待つことなく、光は音もなく病室を去った。

ドアが閉まる音を聞いて、苑実はようやく目を開けた。

腰の奥から突き刺すような痛みが走る。 苑実は重い体を引きずり、傍らの浴室へと入った。

綾乃と瓜二つの刺青を見て、苑実の眼差しの嘲りはさらに深まり、胸の奥が重く沈んだ。

午後7時、苑実は光に付き添われ、秋葉グループの記者会見に姿を現した。

健人はすでに到着していた。

男は際立った容姿を持ち、背筋を伸ばした立ち姿は、純手縫いの黒いスーツをまとい、いっそう気品に満ちて見えた。

男が身につけているスーツに視線を落とした時、苑実の瞳に暗い光が宿った。

このスーツは、彼女が2年前、一ヶ月もの心血を注ぎ、デザインから完成まで、昼夜を問わず、自らの手で縫い上げたものだった。

健人がこの服を受け取った時の喜びようを、彼女はまだ覚えていた。

だが、わずか二年で、服は同じでも、着る人間はもはやあの頃の彼ではなかった。

「松浦さん、秋葉社長の婚約者として、昨夜の秋葉社長と刺青の美女との密会について、どのようにお考えですか?」

「見て見ぬふりをされるおつもりですか、それとも……」

記者の言葉は、目の前の光景に驚愕して途切れた。

健人が苑実の腰に手を回し、同時に彼女の上着の裾を意図的にめくり上げたのだ。

動画と全く同じ刺青が、瞬く間にカメラの前に晒された。

男の指先は冷たく、触れられた場所がひどく不快で、苑実は身の毛がよだつ思いだった。 顔を上げた時、苑実は彼の首筋にキス痕があるのさえ見てしまった。

胃酸がこみ上げてくる。 苑実は唇を固く噛みしめ、その吐き気を必死に抑え込んだ。

「寧々、昨夜の件について、記者の方々に説明してあげてくれ」

話す時の男の口調は優しかったが、その眼差しは明らかに嘲弄に満ちていた。

苑実は苛立ちで胸がいっぱいだったが、祖母のことを思い、深く息を吸い込んだ。

彼女はゆっくりと笑みを浮かべた。 「記者の皆様、誤解です。 昨夜、秋葉社長と一緒にいたのは、この私です」

「ネットで流れているゴシップ動画は、全くの誤解に過ぎません」

「なんだ、ただの勘違いだったんですね。 松浦さんと秋葉社長の仲はとても安定しているようですし、これは近いうちに良い知らせが聞けそうですね!」

記者の言葉を裏付けるかのように、健人は親密そうに苑実を抱き寄せ、その目元は優しさに満ちていた。

ポケットの中の携帯電話が鳴り、「綾乃」という文字が画面に表示されると、健人はすぐに苑実から手を離した。

幸い、記者たちはすでに去っていた。 そうでなければ、また新たなスキャンダルが生まれるところだった。

遠く離れていても、苑実には綾乃の弱々しく、傷ついたような声と、健人が低く優しくなだめる声が聞こえてきた。

苑実は光が手配した車を断り、一人で市中心部のマンションへと帰った。

暗闇の中、苑実は掃き出し窓のそばのソファに、長い間座っていた。

窓の外に広がる街の灯を眺めながら、彼女は一連の数字をダイヤルした。

電話は三度鳴り、相手は出たものの、なかなか声が聞こえてこない。

耳元に低い呼吸音がなければ、苑実は電話が切れたのかと思っただろう。

死のような静寂の中、苑実は意を決して口を開いた。 「あなたが私に約束してくれた条件、まだ有効ですか?」

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