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清水さん、お元気でしたか。元夫の天敵に三年越しで溺愛されています の小説カバー

清水さん、お元気でしたか。元夫の天敵に三年越しで溺愛されています

結婚生活を送った三年間、清水瑠衣は冷徹な夫・立川蒼空の心を愛で溶かせると信じていた。しかし、その期待は土砂降りの夜に打ち砕かれる。彼女が命懸けで撮影したユキヒョウの写真は、夫が新恋人を写真界の頂点へ導くための道具に利用されたのだ。夫が別の女を抱き表彰台に立つ影で、瑠衣はアフリカの病院で生死の境を彷徨っていた。絶望した彼女は離婚届を残して失踪し、自らの力で栄光を掴むと誓う。月日が流れ、セレンゲティでカメラを構える彼女の前に現れたのは、元夫の宿敵であり、巨大資本を操る極東グループの支配者だった。彼は瑠衣を車との間に追い詰め、独占欲を孕んだ声で囁く。「同情ではない。立川が手放した至宝を愛おしんでいるだけだ」と。逃げ場を失った彼女は、その掠れた告白から真実を知る。彼は三年前から、密かに彼女を我が物にしたいという情熱を燃やし続けていたのだ。元夫の天敵による、執着と溺愛に満ちた逆転劇が幕を開ける。
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章 2

電話口の向こうに誰かがいるにもかかわらず、立川蒼空の視線は針のように瑠衣を射抜いていた。

その冷たい眼差しに、清水瑠衣の瞳孔がきゅっと収縮する。 これが、蒼空が彼女に下す罰なのだと、肌を刺すように悟った。

蒼空の前では、彼女はあまりにも無力だ。

見えない鎖で締め上げられ、嘲笑されているかのような息苦しさが、波のように押し寄せては瑠衣の心身を絡め取っていく。

やがて蒼空はスマートフォンをソファに放り投げ、氷の刃のような声で言い放った。 「いつ過ちを認める?認めれば、お前の母親の治療を再開させてやる」

無数の棘が胸に突き刺さるような痛みに耐え、瑠衣は奥歯を噛みしめた。 「私は間違っていない。 絶対に認めない。 立川蒼空、あなたの非情さが、ようやく骨身に染みたわ!」

蒼空は氷のような瞳で、ゆっくりと告げた。 「お前が俺の前に跪き、許しを乞う日を待っている」

瑠衣の返答を待つでもなく、蒼空は冷ややかに言い捨てると、彼女に背を向け部屋を出ていった。

彼が戻ってきてから、まだ十分と経っていない。 だが、そのあまりに短い時間は、彼女に確かな絶望を刻みつけた。

糸が切れたようにソファに崩れ落ち、瑠衣の顔から血の気が引いていく。 絶望が全身を蝕む。

だが、その暗闇に沈みきる寸前、「母の治療費」という言葉が彼女を現実に引き戻した。 そうだ、ぐずぐずしている時間はない。 病院へ行かなければ。

父の会社が倒産し、父自身も失踪した後、母は自ら命を絶とうとした。

幸い一命は取り留めたものの、植物状態となり、残りの人生は高額な医療機器なしでは維持できない体になってしまった。

瑠衣は病院へ駆けつけると、真っ先にカードの有り金をすべて引き出し、当座の治療費に充てた。

結婚してからの三年間、彼女は働きづめだった。

だが、口座の残高は、わずか三ヶ月分の医療費にも満たない。

この歪んだ結婚生活から抜け出すには、まず経済的に自立し、蒼空の助けを一切必要としない自分にならなければ。

藁にもすがる思いで、瑠衣はひとつの番号をタップした。

「田中さん、お願いしたいことがあるんです」

相手は、彼女のマネージャーのような存在である田中静香だ。

ここ数年、野生動物写真家として少しずつ名を知られるようになった瑠衣の仕事を、静香は公私にわたって支えてくれていた。

電話口の静香は瑠衣の苦境に深く同情し、全力で助けると力強く約束してくれた。 人脈の広い彼女なら、きっと突破口を見つけてくれるはずだ。

午後七時。

瑠衣は車を走らせ、景瑞ビルに到着した。

静香が、今回のコンテスト主催者との面会を取り付けてくれたのだ。

傍らのハンドバッグには、陸奥陽菜に作品を盗用されたことを証明する、すべての証拠が収められている。

瑠衣はエレベーターで22階へ向かい、2203号室のドアをノックした。

やがてドアが開き、だぶついた腹を揺らしながら、見るからに脂ぎった中年男が入ってきた。

瑠衣は礼儀正しく頭を下げる。 「はじめまして、佐藤社長。 今回のコンテストに参加させていただいております、清水瑠衣と申します。 私の作品が盗用された件で、ぜひ社長のお力添えをいただきたく参りました。 田中静香から話は伺っておりますでしょうか」

佐藤寛は、品定めするような粘ついた視線を瑠衣の全身に這わせた。 「ほう、あなたが噂の清水カメラマンですか。 これほどお若く美しい方が、あんな危険な場所で撮影とは、ご苦労なこった」

「この美貌に、この繊細な手……ネイチャーフォトなんざ、まさに宝の持ち腐れですな」

言いながら、その脂ぎった手がぬるりと伸びてくる。

瑠衣の笑みが凍りつく。 彼女は反射的に身を引き、その手が触れる寸前でかわすと、用意していた資料を押し付けるようにして手渡した。

「佐藤社長、まずはこちらの証拠をご覧ください。 主催者でいらっしゃる社長でしたら、私達のように命懸けで記録を撮る写真家の気持ちを、きっとご理解くださると信じております。 わたくしは、ただ公正な判断を求めているだけなのです」

寛は資料をテーブルに叩きつけ、口の端を醜く歪めてせせら笑った。

「清水瑠衣さん、あんた本気でこんなおままごとみたいなことを考えてたのか?何の対価もなしに、この俺がいわゆる『公平な正義』のために、あの立川社長を敵に回すとでも?」

瑠衣は表情を変えぬまま拳を握りしめる。 鋭い爪が掌に食い込む痛みで、かろうじて平静を保っていた。

「お金でしたら、問題は……」

だが、彼女が言い終わる前に、寛の嘲笑がそれを遮った。

彼は心底から侮蔑するように言い放つ。 「あんた、立川蒼空があの業界でどういう存在か、知らないわけでもあるまい?」

瑠衣の張り詰めていた心の糸が、ぷつりと音を立てて切れた。

蒼空の地位を知らないはずがない。

わずか五年で立川グループを頂点に押し上げ、今やその規模は、東京広しといえど新井グループに次ぐのみ。

「だが、まあ、その美貌に免じて、あんたが俺と一晩じっくり『お付き合い』してくれるなら、話は別だがな」

寛が卑しい笑みを浮かべ、その重い体で覆いかぶさってくる。

脂の臭いが鼻をついた、その刹那――。 バタン、と乱暴にドアが開け放たれる。 次の瞬間、伸びた影と、しなやかで力強い脚による一閃。 巨体が宙を舞い、壁に叩きつけられる鈍い音が響いた。

何が起きたのか分からず、瑠衣はドアへと視線を投げた。 逆光の中に立つ、長身の人影。 その人物が誰なのかを認めた瞬間、彼女は息を呑んだ。

新井湊……?

立川蒼空の、宿敵。

彼が、なぜここに……?