さよなら契約、涙のオフィス の小説カバー

さよなら契約、涙のオフィス

8.0 / 10.0
『さよなら契約、涙のオフィス』は、契約で結ばれた上司と部下の複雑な関係を描く現代のromance novel。誰もが公認の仲だった二人の日常は、オフィスの扉の向こうで目撃した裏切りの光景によって一変する。billionaireな上司との甘い時間は終わりを告げ、彼女は自らのキャリアと決別を迫られる。感情を押し殺し、法的な書類を手に彼女が下す最後の決断とは。読者を惹きつける刺激的なbillionaire romance booksの決定版。
「さよなら契約、涙のオフィス」のあらすじ
法務部から催促された書類を手に、彼女は上司が待つオフィスの前で立ち尽くしていた。社内では公認の仲であり、普段ならノックもせずに足を踏み入れる場所だ。しかし、この日に限っては胸騒ぎを覚え、戸惑いながらも扉を叩いた。中から漏れ聞こえてきたのは、衣擦れの音と女性の艶やかな笑い声。不安に駆られながら扉を開けた瞬間、目の前の光景に心は凍りつく。デスクに腰掛ける上司の胸元には、一人の女性が親密な様子で寄り添っていた。窓から降り注ぐ陽光が、彼のネクタイを整える彼女の細い指先を美しく照らし出し、二人の間の甘い空気を残酷なまでに際立たせている。視界が歪み、喉の奥に言葉が詰まる。絞り出すようにして書類の件を告げようとしたその時、二人の視線が同時にこちらへと向けられた。公私ともに築き上げてきた関係が、音を立てて崩れていく。このオフィスに漂う親密な空気は、もはや彼女が知るかつてのものではなかった。衝撃のあまり声も出ない彼女と、平然と振り返る上司。静寂に包まれた部屋で、三人の運命が静かに交錯し始める。
もっと見る

さよなら契約、涙のオフィス 第1章

一通のメッセージ。下には写真が5枚添付されていた。

絡み合った下着、指を固く絡め合う両手、握りしめて皺になったシーツ、浴室のぼやけた映り込み……

これは路遥が挑発を受け取るのは初めてではない。

ほかの女の手首を肉に食い込むほど掴む大きな手――ひと目で、幼なじみで長年の恋人である宋津年の手だとわかった。

写真の日付は、ちょうど二人の交際3周年の記念日だった。

その日、路遥は病院からの救急の電話を受け、宋津年が交通事故に遭ったと知るや、取り乱して赤信号を3つ突っ切り病院へ駆けつけた。

だが彼女が見たのは、全身血まみれの秘書・蘇晚意を抱きかかえ、救急外来に飛び込む宋津年の姿だった。

何の説明もなく、9日間連絡が途絶えたあと、彼はようやく姿を見せた。隣には一人の女が増えていた。

聞くところによれば、彼女は宋津年を救うために重傷を負い、記憶を失ったという。そのため彼に強く依存するようになったらしい。

宋津年は負い目から、その恩に報いるべく徹底的に優しくし、片時も離れず寄り添っている。

路遥は鼻で笑って画面を閉じ、催促し続けていた母にようやく返信した。【縁組に同意する】

ただし去る前に、路遥は彼に三つの餞別を用意するつもりだ。

......

路遥は宋津年の執務室の前に立ち、法務部が署名を急かす契約書を手にしていた。

いつもの癖で、そのまま扉を押し開けて入ろうとした。

社内の誰もが彼女と宋津年の関係を知っており、仰々しい作法など要らなかったのだ。

だが今日は、指先が扉の上で一瞬宙に浮き、結局はそっとノックした。

中から衣擦れの気配と、女の甘い笑い声が混ざって聞こえた。

胸がきゅっと縮む。それでも、押し開ける手はもう止まらなかった。

目に飛び込んだ光景は、頭から氷水を浴びせられたようだった。

机に背を預ける宋津年、その胸元に身を預ける蘇晚意。細い指が彼のネクタイを整えている。

床から天井までの窓から陽が差し、二人の上に落ちて、親密なシルエットを縁取っていた。

「津年、書類――」路遥の声は喉で途切れた。

二人が同時に顔を上げる。

蘇晚意の頬にはまだ赤みが残り、宋津年の目には一瞬の狼狽が走ったが、すぐにいつもの余裕ある表情へ戻った。

彼は自然に蘇晚意との距離を取り、足早に路遥へ向かう。

「遥遥?」 彼は書類を受け取りながら、指先をそのまま彼女の指の間へ滑り込ませ、十指を絡めた。「どうして自分で持って来たの?俺に会いたくなった?」

彼の掌は温かく乾いていて、路遥にとって最も馴染んだ感触だった。

この3年で、その手は会議室の机の下でこっそり彼女の指先を摘み、年次パーティーでは彼女の腰を抱いて所有を誓い、深夜残業のときは肩に上着をそっと掛けてくれた。

なのに今は、その温度がただ焼けるように不快だった。

思わず手を引こうとしたが、宋津年がさらに強く握る。

彼は身を屈めて耳元に寄せ、吐息が耳朶をかすめる。「考えすぎるな。晚意はちょっと具合が悪いだけだ」

「津年」背後から蘇晚意の弱々しい声が届く。「頭がすごくくらくらするの」

宋津年の身体がはっきりと強張った。

路遥はその目の奥に一瞬の逡巡を見たが、すぐ消えた。

彼は彼女の手を放し、振り向いて蘇晚意へ歩み寄る。「また痛むのか?医者を呼ぶか?」

蘇晚意は首を振り、ふにゃりと彼の身体に寄りかかる。「あなたがそばにいてくれればいい」

彼女は潤んだ瞳を上げて路遥を見る。「路部長、出ていってもらえますか。 いま、人に会うのがちょっと無理で」

路遥の爪が掌に深く食い込む。

三か月前のあの事故以来、記憶を失った蘇晚意はこんなにも儚げになり、彼女を宥められるのは宋津年だけだ。

社内では密かに囁かれていた。蘇秘書は宋社長を救うために負傷した、その恩で一生食っていけるだろう、と。

「書類はここに置く」路遥は契約書を手近なローテーブルに置き、静かな声で言った。「法務部が急いでいる」

宋津年は片手で蘇晚意を支え、わずかに眉をひそめる。「遥遥」

「先に失礼する」 踵を返す瞬間、視界の端に、蘇晚意の口元をかすめた一瞬の得意げな笑みが映った。

扉が閉まる刹那、泣き声まじりの蘇晚意の声が漏れた。「津年、邪魔してるよね……でも本当に怖いの……」

路遥は足を止めず、早足でエレベーターへ向かった。

廊下の同僚が何人か、彼女へ含みのある視線を投げた。

彼らの目には、路部長と宋社長はいまだ羨望のオフィス・カップルに映っている。

だが誰も知らない。蘇晚意から電話が入るたび、宋津年がすべてを投げ出して彼女の元へ駆けつけていることなど。

エレベーターの扉が閉まった瞬間、路遥はようやく深く息を吸うことを自分に許した。

ポケットの中で携帯が震える。母からのメッセージだ。【謝家のほうがまた聞いてきてる。考えはどう】

三か月ぶりに、路遥は迷わなかった。【縁組に同意する】

ほとんど同時に電話が鳴った。

「どうして急に吹っ切れたの」母の声には明らかな驚きが混じる。「この前はもう少し様子を見るって言ってたでしょう」

「別に。ただ、決めるべき時だと思っただけ」

「声が違うわね」母は敏く異変を察する。「宋津年のほうで何か――」

「お母さん」路遥は遮った。「帰りたい」

受話器の向こうが数秒間沈黙し、「わかった。謝家との顔合わせを来月に段取りする。 ほんとうに決めたのね」と言った。

「うん。退職の手続きが済んだら戻る」 路遥は電話を切り、人事部にメッセージを送った。【契約満了後は更新しません。退職手続きをお願いします】

人事部長李玉からの返信はすぐに来た。【路部長、こんなに急に? 宋社長に知らせますか。 幹部の退職は彼の署名確認が必要です】

路遥はそっと目を閉じた。【まだ彼には伝えないで。満了前に私が処理する】

続きを読む

さよなら契約、涙のオフィス 目次一覧

Ch. 1 Ch. 2 Ch. 3
Ch. 4
Ch. 5
Ch. 6
Ch. 7
Ch. 8
Ch. 9
Ch. 10
Ch. 11
all

おすすめの作品

新着リリース小説

用済みだと捨てられた令嬢、嫁ぎ先で覚醒し国中をひれ伏させる の小説カバー
7.9
名門の血を引きながらも、非道な実の両親や四人の兄、そして偽の令嬢によって死の淵へと追いやられた一人の少女。しかし、その絶望的な裏切りが彼女を縛っていた従順な仮面を打ち砕いた。覚醒した彼女は、己を虐げてきた者たちに対し、容赦のない拳と圧倒的な力で報復を開始する。戦いの中で次々と明かされるのは、伝説的な神医や鑑定士としての驚くべき裏の顔だった。彼女を侮り、踏みつけようとした者たちは、その圧倒的な才覚の前にひれ伏すこととなる。周囲が「親にすら愛されない存在」だと嘲笑を浴びせても、彼女はもう孤独ではない。彼女の真の価値を見抜いた城下随一の名家が、盾となって立ちはだかったのだ。「我らの至宝が、あのような獣に愛される必要などない」と。これは、全てを奪われた令嬢が真の力を解放し、自らの意思で運命を切り拓き、敵対する者すべてを屈服させていく痛快な逆転劇である。彼女の歩む道には、もはや誰の妨害も許されない。
追放された“クズ婿”は、世界を震わす絶世の王 の小説カバー
9.0
周囲から「無能な落ちこぼれ」と蔑まれ、肩身の狭い思いをしながら生きてきた一人の婿養子がいた。妻の家族からも人間以下の扱いを受け、犬にも劣る存在として虐げられる日々。そんな彼をさらなる悲劇が襲う。卑劣な陰謀に嵌められた彼は、身に覚えのない罪を着せられ、屈辱にまみれたまま妻の家を追放されてしまったのだ。すべてを失い、どん底に突き落とされた男。しかし、この理不尽な追放劇こそが、眠れる獅子を呼び覚ます引き金となる。彼こそは、かつて世界を震わせた伝説の王者であり、その真の姿を知る者は誰もいなかった。静かに牙を剥き、再び表舞台へと姿を現した絶世の覇者。裏切りと蔑みの果てに、彼は己を貶めた者たちへの逆襲を開始する。隠されていた圧倒的な力とカリスマ性が解放されるとき、世界は未曾有の衝撃に包まれることになる。これは、最底辺まで堕とされたクズ婿が、真の王として覚醒し、運命を自らの手で切り拓いていく壮大な復讐と再起の物語である。彼が歩む道の先には、驚愕の真実と新たな秩序が待ち受けている。
夫と愛人、裏切りの微笑み の小説カバー
8.7
桐山流の家元の娘として生まれた私は、深沢真史との婚姻生活を送っていた。しかし、その実態は彼の野心を叶えるための道具に過ぎず、心身ともに追い詰められる日々だった。ある日、夫が愛人の桜歌奈だけに注ぐ慈しむような微笑みを目の当たりにし、私の心は音を立てて崩れ去る。これ以上の忍耐は不可能だと悟り、私は離婚を決意した。だが、真史は私の決断を気を引くための稚拙な策だと嘲笑し、聞く耳を持たない。それどころか、愛人が捏造した偽の証拠映像を信じ込み、私に激しい暴力を振るった。「お前は俺のものだ」と冷酷に囁きながら首を絞められ、私は意識を失ってしまう。病院のベッドで目覚めた私の視界に飛び込んできたのは、夫に寄り添いながら勝ち誇った笑みを浮かべる桜歌奈の姿だった。彼女は私を「処理」すべきだと夫に唆す。その無慈悲な言葉を聞いた瞬間、私の中の何かが完全に終わりを迎えた。裏切りと憎悪が渦巻く中で、かつての愛は修復不可能なほど無残に砕け散ったのである。
炎に焼かれた私の愛 の小説カバー
8.8
猛火に包まれた絶望の淵で、私は最愛の家族から残酷な裏切りを受けた。天井が崩れ落ちる極限状態の中、夫は妻である私を足蹴にし、かつての親友を抱きかかえて逃げ去っていく。さらに追い打ちをかけたのは、命懸けで産み育てた息子の言葉だった。「お母さんなんて死ねばよかったのに」と叫び、夫と共に別の女性を優先するよう促す我が子の姿に、私の心は瓦礫よりも深く打ち砕かれた。喘息の発作に苦しみ、最後の一錠の薬を握りしめながら、私はこれまでの献身がすべて無意味だったことを知る。なぜ私は愛する者たちにこれほどまで憎まれ、捨てられなければならなかったのか。意識が遠のき、死を覚悟したその時、一人の見知らぬ少年が力強く私の手を握りしめた。「僕が助ける」というその救いの声を聞いた瞬間、私の中で冷徹な決意が芽生える。私を捨てた夫や実の息子ではなく、この絶望の中で手を差し伸べてくれた少年を、私の本当の息子として生きていく。炎に焼かれた過去の愛を捨て、新たな絆と共に私は再び立ち上がる。
社長、奥様がまた離婚届を取りに行かれました の小説カバー
8.3
南城を支配する冷徹な権力者との結婚。それは、誰もが「政略結婚の犠牲」と蔑む愛なき契約だった。ついに家を追われることになった彼女の前に現れたのは、身重の姿をした彼の「初恋の女性」だ。名門界隈の人々は、無惨に捨てられた正妻の末路を嘲笑おうと、固唾を飲んで事態を注視していた。しかし、悲劇のヒロインを演じるどころか、彼女は不敵な笑みを浮かべて言い放つ。離婚届を求めて役所に日参しているのは自分であり、誰よりもこの縁が切れることを切望しているのは私なのだと。世間はそれを強がりだと決めつけ、夫である彼こそが離婚を待ち望んでいるはずだと信じて疑わなかった。だが、その予想は彼自身の手によって無慈悲に打ち砕かれる。彼がSNSに投稿した「離婚の事実は一切ない。デマには法的措置を講じる」という断固たる声明は、瞬く間に世界を震撼させた。離縁を望む妻と、それを頑なに拒む夫。冷酷な支配者が執着の果てに求めている真意とは一体何なのか。予測不能な愛の攻防が今、幕を開ける。
永遠が崩れ落ちる時――愛の過酷な現実 の小説カバー
7.9
IT界の若き成功者である神宮寺蓮は、誰もが羨む理想的な夫だった。結婚してからの二年間、私は彼の深い愛情に包まれ、幸せの絶頂にいた。しかし、その平穏な日常は、彼の過去を知る女性と、白血病を患う四歳の少年の出現によって無残に打ち砕かれる。その子は、蓮の隠し子だった。息子を救うことに執着し、次第に家庭を顧みなくなる蓮。ある日、病院で少年の発作に直面し混乱する中、私は転倒して激痛に襲われる。だが、蓮は床に倒れ伏す私に目もくれず、息子を抱えて走り去った。独り置き去りにされた私は、誰にも看取られることなく、お腹の新しい命を失った。翌朝、ようやく現れた蓮の首筋には、生々しい密会の痕が刻まれていた。私が絶望の淵で子供を失っている間、彼はあの女と過ごしていたのだ。さらに彼は、息子の最期の願いを叶えるため、私に別居と偽装結婚の承諾を迫る。愛が憎しみへと変わる瞬間、私は虚ろな心で彼の身勝手な提案を受け入れた。美しくも残酷な愛の終わりが、ここから始まる。
今すぐ読む
共有