フォローする
章
共有
命の淵で愛は終わる の小説カバー

命の淵で愛は終わる

アルファであるカールの手によって私の腹部が切り裂かれ、まさに手術が始まろうとしていたその時、彼の携帯電話が激しく震えだした。通話の相手は彼の義妹。彼女は自殺を図り、死に際にもう一度だけ彼に会いたいと告げたのだ。その知らせを耳にした瞬間、カールは迷うことなくメスを放り投げ、私の執刀をアルファ・アーサーへと託して、背を向けて走り去ってしまう。手術台の上で無惨に切り開かれたまま、遠ざかっていくカールの後ろ姿を見つめる私の心臓は、まるで見えない手に握り潰されたかのような激痛に襲われた。絶望に打ちひしがれ、目から溢れ出す涙を止めることができない。そんな私の肌を、再び冷徹なメスの感触が貫いた。代わって執刀を始めたアーサーは、感情を押し殺した冷ややかな声で私に言い放つ。「何を泣いている。俺がここにいる。お前を死なせはしない」。最愛の男に見捨てられた極限の状況下で、命を繋ぐための過酷な時間が刻一刻と過ぎていく。愛が潰えた命の淵で、運命の歯車が静かに、そして残酷に回り始めた。
章
共有

章 2

手術は十時間に及んだ。

手術室から出た時には、すでに翌日の夕方になっていた。

窓の外では雨が降り始めている。

アーサーはずっとそばにいて、私の容態が安定するのを確認するまで離れなかった。

ゆっくりと目を開けると、そこは真っ白な病室だった。

体を起こそうとしたが、めまいに襲われた。

アーサーが慌てて私を支え、冷淡な声で言った。

「手術を終えたばかりだ、おとなしく寝ていろ」

私は頷いて体を横たえ、虚ろな目で天井を見つめた。

脳裏には、手術台でのあの光景が繰り返し再生されていた。

焦った様子で去っていくカールと、冷静に後を引き継いだアーサー。

私の心は、まるで二つに引き裂かれたかのようだった。

半分はカールへの絶望と怒り。

もう半分はアーサーへの感謝。

私はアーサーに感情を読み取られたくなくて、顔を背けた。

窓の外の雨音は次第に強くなり、まるで私の境遇を嘆き悲しんでいるかのようである。

カールはようやく私のことを思い出して連絡を寄越した。

それでも私の心は、わずかながらの安らぎを得た。

アーサーは私のスマートフォンの画面表示を見て、気を利かせて病室から出ていった。

カールからビデオ通話がかかってきたのは、麻酔が切れ始め、傷口の痛みが襲ってきた時だった。

ビデオ通話に出ると、活発で甘えたような女の声が聞こえてきた。

「ああ……気持ちいい……当たってる……」

これは何の音だ?

私が手術の苦しみを味わっている間に、カールは他の女を抱いていたというのか?

窓の外では雨筋がガラスを叩いていたが、私の指先の温度は、その雨よりも冷たかった。

体中が茨で覆われたかのように、ちくちくとした痛みが心まで広がっていく。

しかし、私の狼であるタリアは冷静だった。

「愛しい人、心配しないで。これは何かの間違いかもしれない」

タリアの言葉に、私の心は少しだけ落ち着きを取り戻した。

私は眉をひそめ、スマートフォンの画面を見つめる。

映像の背景は騒がしいバーの個室で、薄暗い光の中に、からかうような笑い声が満ちていた。

カメラはソファの中央に向けられており、私は息を呑んだ。

カールの膝の上に座っていたのは、彼が助けに駆けつけたはずの義妹、ビアンカだった。

ビアンカは体にフィットしたキャミソールドレスを身につけ、その髪はカールの肩に散らばっている。

彼女は両腕を彼の首に回し、体をわずかに揺らしながら、太ももの付け根でカールの股間を擦りつけていた。

服の上からとはいえ、その光景は吐き気を催させた。

カールの手は彼女の腰に置かれており、突き放そうとしているようにも見えたが、本当に力を込めてはいない。

周囲の人間がまだ叫んでいる。

「大冒険を選んだなら、あと十回擦りつけろ!」

ビアンカは蠱惑的に笑い、さらにカールに体を寄せた。

彼女の声がビデオ越しに聞こえてくる。

「お兄ちゃん、そんなに恥ずかしがらないでよ」

私の指は白くなるほど握りしめられ、先ほどまでのちくちくとした痺れが、突然鋭い痛みに変わった。

痛みが血管を伝って心臓へと突き刺さる。

私は勢いよく立ち上がった。

通話の向こう側でガサガサという音がし、カールがスマートフォンを取り上げたようだった。

彼の目はとろんとしており、体からはバーの酒の匂いがした。

ビアンカの匂いも混じっているかのようだ。

彼は頭を振って少し意識をはっきりさせた。

「エリザベス、具合はどうだ?」

彼は私の様子の異変に気づいた。

「君が考えているようなことじゃない。俺たちは『真実か挑戦か』ゲームをしていたんだ。彼女が挑戦を選んで……」

「彼女を助けに行ったんじゃなかったの? なぜバーにいるの」

ビアンカが彼の隣に割り込んできて、またしてもあのわざとらしい口調で大声で叫んだ。

「ごめんなさい、エリザベス。私、酔っぱらって変なことを言っちゃっただけなの」

「そしたらカールが血相を変えて私を探しに来てくれたのよ」

「彼のことはもう叱っておいたから」

「あなたの手術は終わったの? カール、たった今そのことを思い出したみたい」

「でも彼があなたのことを忘れちゃったのは、ただ私のことを心配してくれてたからなの。彼を責めたりしないわよね?」

これ以上は聞いていられなかった。

すぐにカールが彼女を引き離した。

「彼女の言うことは聞くな、エリザベス。俺も君を心配している」

「今の気分はどうだ?」

私は彼の顔についた口紅の跡を見つめ、静かに口を開いた。

「彼女、さっきあなたの股間を擦っていたの?」

カールの表情がこわばり、やがて苛立ちの色が浮かんだ。

「エリザベス、知っているだろう。ビアンカはただの妹だ」

「俺たちは子供の頃から一緒に育ったんだ。家族同士が少し親しくしたって、何が悪い?」

「ただのゲームじゃないか」

「何度もビアンカを敵視するのはやめてくれ。俺が愛しているのは君だけだ」

私だけを愛している?

愛している?

手術中の私を置き去りにするくせに?

手術が終わってからようやく私の心配を思い出すくせに?

それどころか、自殺のふりをした妹と酒を飲み、親密に触れ合っているくせに。

「どんな家族があなたの股間を擦り回すっていうの?」

「カール、あなたの言う『親しさ』が、私には理解できないのか、それともあなたが自分を騙しているだけなのか、どっちなの?」

私の眼差しは、私の心と同じくらい冷え切っていた。

私は問い質さずにはいられなかった。

カールが口を開く前に、彼の友人たちが先に口を挟んだ。

「おい、お前のルナはまだお前を縛り付けるのか?」

「ビアンカがお前の義妹だってことはみんな知ってる。彼女がビアンカにこんな仕打ちをするなんてひどいじゃないか」

「でも確かにビアンカはいい子だ。まるでお前のもう一人のルナみたいだな」

カールは自信を得たようで、傲慢な態度で私を見つめた。

「エリザベス、君は俺を問い詰めるべきじゃない」

「ゆっくり休め。良くなったら、また会いに行く」

彼の言葉は、ただでさえ痛む傷口を再び引き裂くかのようだった。

しかし、それ以上に私を苦しめたのは、カールが私に向けるその態度である。

「でも彼は浮気をしたわけじゃない、エリザベス」

私の狼も悲しみを感じていたが、それでも私をなだめようとした。

「カールと彼の義妹は何年も一緒に暮らしてきたのだから、彼女を気にかけるのも当然のことよ」