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私の正体、レベルMAXにつき。 の小説カバー

私の正体、レベルMAXにつき。

数多の顔を持つ最強の実力者は、素性を隠して貧しい青年との結婚を決めていた。しかし、挙式直前に彼が富豪一族の御曹司であることが発覚。豹変した彼は、彼女を卑しい田舎娘と蔑み、世間の晒し者にした挙句に婚約を破棄する。地位を得た元婚約者から冷酷な屈辱を与えられた彼女だったが、その真の姿は世界を揺るがす圧倒的な権力者だった。国際的な神医、上場企業のCEO、最強の傭兵女王、そして天才科学者。次々と明かされる彼女の華麗なる正体に、世界中の求婚者が列をなす事態へと発展する。かつての傲慢さを失い、復縁を求めて必死に媚びへつらう元婚約者。しかし、そんな彼の前に、誰もが恐れる絶大な富と権力を手にした大富豪が立ちはだかる。「私の妻に手を出す不届き者は誰だ?」契約結婚から始まった二人の関係はやがて真実の愛へと変わり、彼女を傷つけた者たちに鉄槌を下していく。正体を隠した最強のヒロインが贈る、逆転と復讐、そして至高のロマンスが幕を開ける。
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2

無実の罪でスケープゴートにされ、葵の心は、怒りでいっぱいだった。

計画はすべて陽一によって台無しにされた。たとえ、この後自由を取り戻せたとしても、「バツイチ」という、不名誉なレッテルが待っている。

あの男、目も心も節穴か!

葵は、彼をこの手でひとかじりにしてやりたいほどの怒りに駆られた。

しかし、今は、自分を守る力もなく、彼はあまりに強圧的で荒れ狂い、葵の言葉を受け入れようともしない。再び、屈するしかなかった。

夕日が西に傾く頃、車は壮麗な西園寺家の邸宅に滑り込んだ。

陽一が葵を車から引きずり下ろすと、焦燥に満ちた顔の執事が駆け寄ってきて、報告した。

「陽一様、すぐにご確認ください!大奥様が突然倒れられ、今、救命措置を」

「倒れられるのは、これで三度目です。医師の話では、心不全も併発しており、恐らくは……ご覚悟を……」

陽一の顔が、途端に恐ろしい形相に変わった。

強烈な殺気を感じ、葵は無意識のうちに身を引いた。

だが、一歩も動く間もなく、彼に首を掴まれ、車のドアに叩きつけられた。

彼は狂ったようだった。葵は、死の淵で跪き、喘ぐように首を絞めつけられる。

「おばあ様が無事であるよう祈るんだな!」

「もし、おばあ様に万が一のことがあれば、お前も……道連れだ!」

歯ぎしりしながらそう言い放つと、陽一は乱暴に手を離し、屋敷に向かって大股で歩いていった。

葵は特赦を受けたかのように、痛む首を押さえて激しく咳き込んだ。

「ゲホッ……ゴホゴホ……」

先ほどの死に瀕する感覚が、葵に後からじわりと恐怖と怒りを抱かせた。

あのイカれた男!

彼は今になっても、自分が娶る相手を間違えたことに気づいていない。

あの男の今の凶暴で狂った状態では、もし彼のおばあ様に何かあれば、自分は十中八九、本当に生き埋めにされて道連れにされるだろう!

誤解が解けるまで無事に生き延びるには、彼のおばあ様を救わなければならない。

そう考えると、葵は体に鞭打つように力を込め、よろよろと彼の後を追い、屋敷の中へ踏み込んだ。

寝室では、白髪の老夫人が目を閉じてベッドに横たわっていた。

大勢の医療スタッフが慌ただしく救命措置を行っている。テーブルの上の機器は、血圧も心拍数も下がり続けており――片足は、確実に死の淵に踏み入れている状態だった。

入口まで駆けつけた陽一は、ぴたりと足を止めた。緊張で面持ちは硬直し、言葉も出ない。すぐ後ろに従ってきた葵も、思わず息を飲んだ。

その時、機器に表示されていた心拍の波形が、一本の直線に変わった。

医師も看護師も、思わず息を止めた。しかしすぐ、再び慌ただしい救命措置が始まる。

だが、老夫人の心拍が戻ることは二度となかった。

責任者らしき医師が、沈痛な面持ちで告げた。「大奥様は……お亡くなりになりました。皆様、お悔やみ申し上げます……」

陽一は、どうしても受け入れられなかった。もともと充血していた両目が、さらに血に飢えたような怒りに燃えた。

「信じない──!蘇生を続けろ。どんな手を使っても、どんな代償を払ってでも、今すぐだ!」

医師は静かにため息をついた。「陽一様。大奥様は心不全です。これ以上、蘇生の見込みは……」

陽一の心は一瞬で限界を迎えた。

彼は生まれた直後、両親を亡くした。そして、祖母の手だけで育てられたのだ。祖母は彼にとって、この世で最も近く、かけがえのない肉親だった。

「いやだ、おばあ様がこんな風に行ってしまうはずがない!」

「俺が結婚するのを見届けて、曾孫を抱くまで安心して死ねないと言っていたんだ!」

部屋は、まるで死んだように静まり返り、誰も口を開こうとしない。ただ、長兄の西園寺太郎だけが、冷ややかに鼻で笑った。「もういいだろう、陽一。今更、そんなことを言って何になる?」

この男は陽一の長兄で、二人は実に二十三歳も年が離れている。

太郎は、口を開くなり陽一を言葉で追い詰めようとした。

「おばあ様は、お前のあの逃げた婚約者に腹を立てて病気になられたんだ。あの方の死について、お前には重大な責任がある」

「女一人もまともに管理できないお前に、一族全体を管理できるなんて――どうして、我々が信じられるというのだ?」

「おばあ様に対して少しでも申し訳ないと思うなら、当主の座と株をすべて差し出し、一族の経営から手を引け!」

陽一は薄い唇を固く結び、あらゆる感情を押し殺した。

兄は、祖母が長孫ではなく陽一に株と当主の座を与えたことを、ずっと不満に思っていた。何かにつけて、陽一に罪を着せようと、常に狙っていたのだ。

普段なら陽一は兄を甘やかさない。この腹黒い兄を、完膚なきまで叩き潰す術を、彼は知っていたのだ。

だが今日、彼に言い争う気力はなかった。

確かに心の底から罪悪感を覚えていたし、何より、祖母を安らかに逝かせたかったからだ。

見かねたのは、車椅子に座る三兄の西園寺三郎だった。

「兄さん、陽一はおばあ様が直々に指名した後継者だ。このタイミングで当主の座と株を要求するなんて、あまりにも浅ましいじゃないか!」

「三郎さん、あなたにこの家で口を出す権利があるとでも?」

太郎が口を開くより先に、その妻である西園寺文枝が割り込んできた。皮肉たっぷりの口ぶり。その精緻な化粧も、骨の髄まで染み渡る辛辣さを隠しきれてはいない。

「陽一さんには当主の徳がありません。当主の座も株式も、当然のことながら手放してもらう!」

「一生車椅子生活で、一族に何の貢献もしていない半端者が。あなたも分け前にあずかりたいとでもいうのかしら?」

文枝は昔から口が悪く、三郎の急所を正確に心得ていた。そして、容赦なくそこを突く。

案の定、三郎は苦痛のあまり膝を握りしめ、もう何も言えなくなった。

葵は傍らに静かに立ち、財閥一家の愛憎劇を眺めていたが、興味はなかった。

他人同士が口論している間も、彼女はずっとおばあ様の容態を注意深く観察していた。

口論が白熱する中、葵は静かに呟いた。「大奥様はまだ助かります……」