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懐妊逃亡〜その種、国家最高権力につき〜 の小説カバー

懐妊逃亡〜その種、国家最高権力につき〜

予期せぬ不慮の事故が、彼女の運命を狂わせた。素性も知らぬ男と過ごした、決して明かすことのできない一夜。その場に残されていたのは、一枚の純金カードだった。しかし、それは対価などではなく、彼女を「泥棒」へと仕立て上げる罠であり、自由を奪う軟禁生活の幕開けとなる。投獄の恐怖と、法の裁きに絶望する彼女の前に現れたのは、あの一夜を共にした当の男だった。男は「妊娠」という事実を盾に取り、彼女の人生へと傲慢に踏み込んでくる。抗う術のない強引な支配に翻弄されるなか、彼女は衝撃の事実に直面する。目の前の男こそが、国家の最高権力者として万人の頂点に君臨する、現職の大統領だったのだ。逃げ場のない状況で、一国の主との歪な関係が加速していく。予測不能な事態に巻き込まれた彼女の行く末は、果たしてどこへ向かうのか。最高権力者の執着と、秘められた命を巡る物語が今、静かに動き出す。
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章 3

七瀬鈴音は銀行カードを取り出し、目の前の男に突きつけた。「先に言っておくけど、このカードは他人から貰ったもので、私が盗んだんじゃないわ。 ついて行くけど、あんたたちの言う“主人”とやらが何者か拝ませてもらうわよ。 私の人生を勝手に決めたり、自由を奪ったりする権利が彼にあるわけ?」

長谷川聡が合図を送ると、ボディガードが恭しく後部座席のドアを開けた。

「七瀬さん、そのカードが盗品か拾得物かは、主人にお会いしてから弁解してください」 聡は彼女を車に乗せると、手際よくドアを閉めた。

車内で、鈴音は緊張と恐怖に襲われていた。これから待ち受ける事態を想像し、心臓が早鐘を打つ。

どれくらい経っただろうか。車が静かに停車した。 降り立った鈴音の目の前には、広大な敷地とヨーロッパ風の建築が広がり、思わず息を呑む。 なんて大きな屋敷だろう。自分のアパートの何千何万倍はあるに違いない。

入っていいものかその場で迷っていると、制服姿のメイドが歩み寄ってきた。

「ついて来なさい」メイドは傲慢な態度で言い放ち、先導し始めた。

この高級邸宅で働くには、たとえメイドのような基礎的な職種であっても、単なる家事能力だけでなく、名門大学の学位を持つことが求められる。

鈴音は、これほど豪華絢爛な建物を初めて見た。温室の天井でさえ、呆れるほど贅沢な造りだ。

1階の客室に通されると、数人のメイドが一斉に群がり、彼女を取り囲んだ。

鈴音は怯えて後ずさり、逃げ出そうとする。「何するのよ!? カードを返してほしいなら、服まで脱がす必要ないでしょ!」

メイドたちは抵抗する鈴音を、極上の内装が施されたバスルームへと連れ込んだ。鏡の枠も蛇口もシャワーヘッドも、すべてが純金製だ。

「閣下にお会いする前に、まずは体を洗って全身検査を受けていただきます。危険物を隠し持っていたりすれば、私たちが困りますので」

案内してきたメイドが冷たく言い放つ。

「なによそのふざけたルール!あんたたちの“閣下”は大統領か何かなの? 会う前に身体検査だなんて」 文句を言っている間に、鈴音は呆然としたまま浴槽に放り込まれた。

お湯は適温に保たれ、高級なアロマオイルの香りが漂ってくる。

彼女たちが言う「閣下」とは、一体何者なのだろう。

メイドたちが退出すると、鈴音は濡れた下着を脱ぎ捨てた。最初は恥じらいがあったが、温かいお湯とオイルが肌に染み渡るにつれ、体の痛みが和らいでいく。 彼女は浴槽の縁に寄りかかり、心地よさにほうっと息を吐いた。

(まさか、昨夜の男が盗んだカードを私に押し付けたのか?) (それで持ち主が怒って私を捕まえたとか?)

それにしても、城のような屋敷に住むなんて、 よほどの大物なのだろう。

入浴を終えると、今季の最新オートクチュールのドレスが用意されていた。薄化粧を施され、髪もセットされる。

ただカードを返しに来ただけなのに、この人たちは何を張り切っているんだ?

「閣下がお戻りです。七瀬様、こちらへお願いします」

部屋を出ると、執事服を着た中年の男が立っていた。

彼について階段を降りながら、鈴音の心臓は激しく波打った。息苦しささえ覚える。見知らぬ相手からカードの件で追求され、風呂に入れられ身体検査をされ、挙句の果てに着飾らされる。これは“泥棒”への尋問というより、むしろ辱めを受けているようだ。

執事に導かれて庭へ出る。視界に飛び込んだのは、高級車の黒い車列が粛然と並ぶ光景だった。その先頭車の後部座席から、一人の男が身をかがめて降り立つ。逆光の中、長身のシルエットが浮かび上がる。スラックスに伸びやかに収まった長い脚、英国式スリーピース・スーツに端整に包まれた躯。冷冷ややかで高貴なオーラを纏い、常人離れした存在感を放っている。

男が近づき、その顔がはっきりと見えた瞬間、鈴音は声を上げた。

「あんた……!」

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