フォローする
共有
シナリオ崩壊!R18展開は聞いてません! の小説カバー

シナリオ崩壊!R18展開は聞いてません!

眠りの中で感じた熱い感触に、私は飼い犬の名を呼んで抵抗を試みる。しかし、返ってきたのは聞き覚えのない男の低い声だった。「俺を誘惑するだけでは飽き足らず、弟にまで手を出したのか?」その言葉に驚き目を開けると、そこには自らが執筆した小説の主人公である羅昱がいた。本来の筋書きでは、彼には双子の弟である羅比というもう一人の主人公が存在するはずだ。脳内でシステムが「物語が崩壊した」と警告を鳴らし、早急に攻略を進めて正規のルートへ戻るよう命じるが、目の前の圧倒的な美貌を前に私の決意は揺らぐ。物語の整合性を守るよりも、この魅力的な男との時間を優先したいという欲望が勝ってしまったのだ。私は彼の首に腕を回し、挑発的な言葉を投げかける。メインストーリーの修復は後回しだ。なぜなら、私には夜の営みを通じて相手を心服させるという、何よりも自信のある特技があるのだから。想定外の展開に翻弄されながらも、私は自らの欲望に従って、甘美な脇道へと足を踏み入れていく。
共有

2

2

羅昱は十五歳の時、誘拐されたことがある。彼を救ったのは夏茉だった。

塀を乗り越える際、剥き出しの釘が彼女の太腿の内側に食い込み、肉は裂け、おびただしい血が流れた。

これがきっかけで、二人の縁は結ばれた。十五歳から十八歳までの三年間、彼らは文通を続けた。

十八歳、夏茉は首都大学に合格し、鄙びた田舎町から羅家の御曹司――羅昱の元へとやって来た。

卒業を機に別れるまで、二人の関係は極めて良好だった。

あれほど傲慢で、天に選ばれたような男が、夏茉のためとあらば他の女とは一切の距離を置き、呼び出しにはいつでも応じた。

夏茉が脚の傷跡を気にして身体を許さなくても、彼は忍耐強く待ち続けた。その手で自らを慰める日々が、四年間も続いたのだ。

誰もが、あの御曹司もついに陥落した、と囁いた。

だが彼は意に介さず、夏茉の傍らで共に学び、彼女の訛りを根気強く正し、二人で留学する日を心待ちにしていた。

あれほど夏茉を愛していたというのに、なぜ別れることになったのか。

システムが、またしても絶叫チキンのような甲高い声でわめき立てる。「羅昱に、他の女ができたからよ!」

なんだって!?

私が創り上げた、あの貞淑の塊のような高嶺の花が、二次創作者の手でただの遊び人に成り下がったというのか?

腹の虫が治まらない。私は隣で眠る端正な顔面に、思いっきり平手打ちを食らわせた。

羅昱は飛び起きた。常に冷静沈着なその顔に、珍しく呆気に取られた表情が浮かんでいる。

彼はどこか信じられないといった様子で呟いた。「……殴ったのか?」

私は冷ややかに笑う。「浮気したでしょ」

彼は一瞬虚を突かれたようだったが、やがて何かを思い出したように目を細めた。

「四年だ。四年間も経って、今更その話を持ち出すのか?」

私はベッドから起き上がると、床に落ちていたバスローブを無造作に羽織った。「最低な男を制裁するのに、遅すぎるなんてことはないわ」

彼は歯を食いしばる。「さっき、俺の腕の中で喘いでいた時は、そんな口をきかなかっただろう」

私はバッグから煙草を一本取り出して火を点けた。「もう用は済んだ。さっさと消えて」

彼は一瞬、我を忘れたように私を見つめた。「……いつから煙草なんて吸うようになったんだ?」

私は白い煙をゆっくりと吐き出す。「言ったはずよ。海外は、色々なことを教えてくれるってね」

ゆらり、と煙が指先から立ち上る。私は部屋の扉を開け放った。

「さあ、出て行って」

羅昱は唇を引き結び、黒い瞳に私には理解できない表情を浮かべた。

彼は裸のままベッドを降りると、ゆっくりとした仕草で服を身につけ、腕時計のバックルを留めながらドアへと向かう。

私はその完璧な肉体美から一時も目を離さず、心の中でそっとため息をついた。

これほどまでに極上の一品が、あんな下劣な真似をするとは。

もう二度と、この男とは寝られないだろう。

羅比の方はどうだろう。

双子なのだから、そう見劣りもしないはず……。

私の横を通り過ぎる瞬間、羅昱は不意に足を止めた。数秒の沈黙の後、彼は唇を噛み締めて言った。「俺と盛悦のことは、君が考えているようなものじゃない……」

もう一度追い立てようと口を開きかけた、その時。システムが弱々しい声で割り込んできた。「あの……羅昱はクズ男じゃないかも……。 彼は盛悦に騙されただけで……本当に付き合ったりはしてない……」

は???

私は思考の中で絶叫した。(なんで今頃言うのよ!言いたいことの半分で黙り込むなんて、喉でも潰れたわけ!?)

絶叫チキンが、今度はしくしくと泣き真似を始めた。「だって、さっきのあなた、すごく怖かったんだもん!えーん!」

私は目を閉じ、こめかみを押さえた。

……私の、あんなに極上の男が。この役立たずなシステムのせいで、パーになった。

私が黙り込んでいるのを見て、羅昱もいくらか腹を立てたようだった。「俺はお前に何もやましいことはない。お前に俺を詰る資格はないはずだ」

「嘘つきめ」

吐き捨てるように言うと、彼は足早に部屋を出て行った。その後ろ姿は、怒りに燃えていた。

嘘つき。

今夜、彼が私をそう呼んだのは、これで二度目だ。

私はシステムに問いかけた。「私は、一体彼の何を騙したっていうの?」

システムは深いため息をついた。「すべては、あの女の差し金よ」

「盛悦。あなたと瓜二つの女」

「そして、彼女の脚には――あの傷跡がある」

盛悦。それは、二次創作者が勝手に付け加えた登場人物。

この女は登場するやいなや、本来のヒロインである夏茉のすべてを奪い取った。

口八丁手八丁で、夏茉の功績をことごとく自分のものへとすり替えた。誘拐犯から羅昱を救い出し、三年間文通を続けたのは自分だと。

夏茉は、自分と瓜二つの顔をした家政婦の娘にすぎず、羅昱が金持ちだと知るやよからぬ心を起こし、手紙を盗んで成り代わったのだ、と。

四年間、頑なに身体の関係を拒んだことさえも、「傷跡がないことを羅昱に気づかれるのを恐れた、疚しい心からの行動」へと捏造された。

翻って盛悦は、御曹司に媚びるつもりは毛頭ないが、羅昱が騙されているのを見過ごせず、やむなく真実を明かした薄幸のヒロインに仕立て上げられた。

こんな見え透いた嘘を誰一人疑うことなく、彼女はまんまと羅夫人のお眼鏡にかない、羅家の未来の嫁として扱われるようになった。

二次創作者は、物語の整合性もキャラクター設定も完全に無視。すべては、盛悦がヒロインを踏み台にして成り上がるためだけに存在する。

鼻で笑ってしまう。

この二次創作者は、おそらく羅昱の“夢女子”なのだろう。自分を盛悦に投影し、ヒロインから無理やり彼を奪い取ったというわけだ。

さらに滑稽なことに、盛悦は双子の兄弟を焚きつけ、自分を巡って反目させた。

システム曰く、羅家の兄弟はこの数年、盛悦のせいで関係がすっかり冷え切ってしまったという。

本来、羅昱と羅比の兄弟の絆、そして二人と夏茉との三角関係こそがこの小説の最大の魅力だったはずなのに、今や二人の主人公は、顔を合わせればただ嫉妬に狂うだけの、知性の欠片もない男に成り下がってしまった。

私は呆れて天を仰いだ。

あのクソ夢女子め。男二人、どちらか一人でも手に入れられると思ったら大間違いだ。

私の書いた甘いラブストーリーを素直に受け継ぐ気がないのなら、この手で過激な官能小説に生まれ変わらせるのを、指でも咥えて見ていなさい。

システムから新たなプロットを流し込まれた後、私は慌ただしく仮眠を取った。 目を覚ますと、羅昱からの、どこかぎこちないメッセージが届いていた。日時と場所が記され、ヨットパーティーへの誘いが書かれている。知人ばかりの集まりで、私に会いたい、と。

私は完璧に化粧を施し、約束の地へと向かった。

清純さと色気を両立させた白いロングドレスの下には、挑発的なビキニを忍ばせている。

このビキニ姿を見た時の羅昱の顔を想像すると、私の脚はまた少し、力を失いそうになる。

あの男、今夜もまた、とろけるような思いをするがいい。

ヨットに足を踏み入れた、その時だった。真正面から現れたのは、私と瓜二つの顔。そして、寸分違わぬ白いドレス。

私の口元から、笑みが一瞬にして消え去った。

まさか、この完璧な造形の顔が、これほどまでに殴りつけたくなるような表情を浮かべるとは、思いもしなかった。