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獣王の花嫁は美しきΩの王子 の小説カバー

獣王の花嫁は美しきΩの王子

ネコ科の獣人たちが支配する軍事強国・サバニア王国の脅威にさらされているアルベニア王国。国家の存亡をかけた危機を乗り越えるため、王家は隣接するエクセリア王国との強固な同盟を模索し、その証として王女をエクセリア王のもとへ嫁がせるという政略結婚の計画を進めていた。しかし、当事者である王女はこの縁談を断固として拒絶し、事態は混迷を極める。国家間の約束を違えるわけにはいかない絶望的な状況のなか、身代わりとして白羽の矢が立ったのは、王女の兄であり、稀少な性質を持つオメガの王子であった。妹の身代わりに、そして愛する祖国を守るための盾として、王子は自らの運命を捧げる決意を固め、異国の地へと赴くことになる。本来の性別を隠し、王女に成り代わって獣王のもとへ嫁ぐことになった王子の運命は、激動の物語へと動き出す。政略と宿命が複雑に絡み合うなかで、種族や立場の垣根を超えた愛の形が試される。運命に翻弄される王子が、新たな環境でどのような絆を築き、過酷な状況を切り拓いていくのかを描いた、切なくも壮大なファンタジー・ロマンス。
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章 2

王の執務室にカツカツと規則正しくはっきりと意思を持った足音が近づいてくる。

扉の前に立つ王の護衛が背筋を伸ばして敬礼をする。

「王に話がある、取り継いでくれ」

凛とした声で話すのはアルバニア王国第1王子で王位継承1位のフレデリック王子である。

190cmの長身に鍛えあげられた四肢、軍を率いる将軍でもあるため日焼けしたそのすがたは精悍な顔つきをさらに際立たせた。

聡明で文武両刀のフレデリックはその甘いマスクで言い寄る女性が枚挙にいとまがない。

ところが、当のフレデリックは女性に対してそれほど興味もなく、二十歳で正妻を迎えていたが二十五歳になった今でも世継ぎどころか子供が生まれていないということで心配した王が側室を二人迎えるように話をすすめていた。

「どうした?」

執務机に向かっている王が顔をあげる

「王、いえ、今は父君に対してお話があります。」

迷いのない瞳でまっすぐに見つめられ王は何も言わずフレデリックの顔を見る。

「ヴァレリーをいつまであの塔に閉じ込めておくのですか?あれでは生きているとは言い難い」

「そうは言っても発情がおきれば誰彼かまわず誘惑してしまう。拘束具をつけてもいいが、それも不憫だろう、それならばあの塔の中で自由に生活する方がいいだろう」

「自由って・・・」

バカなと言わんばかりに首を横に振りながら

「わたしがヴァレリーの番(つがい)になれば済むこと、いや、そうすべきだと思います」

「お前たちは兄弟なんだ、そんなこと・・・・」

「母親が違います、それに私の番となればむやみに発情は起きない」

「う~む」

腕を組み考え込む王に

「そもそも父君はヴァレリーの母親までもどこかに幽閉しその息子、あなたの実の子である息子まであのような所へ幽閉するなど・・」

「アデールのことは今は関係ない。それに、アデールを城内で自由にさせるとドロテ、お前の母親がうるさいしな」

母ドロテは正直フレデリックも辟易するほどの焼きもち焼きで、フレデリックが女性に対してあまり積極的ではないのは母ドロテと妹ブリジットに機縁していると言っても過言ではない。

「母親の違う兄弟で結婚することは多々あることです。それにヴァレリーがΩであるのならαのわたしの子を産む確率は高くなる。それに、何人の妃をわたしに与えたところで子を成すことはないでしょう。しかし、ヴァレリーならわたしの子を孕むことができる。」

その言葉を聞いた王はさらに深く「う~ん」とうなり

「少し考えてみよう」と答えた

「この国にもヴァレリーにもそして私にもいい話だと思います。」

二人の話が終わるか終らないかのところで

ブリジット様!お待ちください!!

扉の前で兵士の慌てる声が聞こえる

「お父様!どういうことですの」

そう言いながら、同じ血の兄妹でありながらフレデリックにも母である王妃にも似ず、歩くたびに体中の肉が揺れるほどのふくよかな体に二重になった顎、性格を映し出したような細くつり上がった目でお世辞にも綺麗とかかわいいなどと言えない妹がどかどかと音をたてて入ってきた。

王はブリジットのこの姿を見て指でこめかみを押さえながら

「何事だ、騒々しい。仮にもアルバニアの王女たるものが品が無さすぎる」

「あら、お父様の子供ですのにおかしいですわね」

ブリジットは人に指図や注意受けることを嫌う。たとえそれが、父親であり王であってもだ。

綿々と引き継がれてきた高慢な気質を持ったアルバニアの血を、より濃く引き継いだ人間でもある。

「だれがケモノの花嫁になるものですが!汚らわしい」

ブリジットはわがままで無知であるため自国の状況を知らない。

王女であるブリジットにも王族としての教育を受けさせていたが、いかんせん自分の事しか頭になく勉強も教師たちの言動が気に食わなければ嫌がらせをしたり、勝手にクビを言い渡すため、教育係も世話係も次々と匙を投げていった。

「お前もこの国の歴史くらいはわかっているだろう?」

「ええ、汚らわしいケモノが身の程も知らずアルバニアから国土を奪ったのでしょう」

その言葉を受けるように王が続ける

「そのサバニアがこの国に侵攻するべく準備をしていると偵察隊からの連絡をうけた、この危機を免れるためにはエクセリアの力が必要だ」

「だったら攻められる前にこちらからサバニアに攻め入ればいいじゃない」

ブリジットの無知ぶりにさすがのフレデリックも聞いていられなくなり

「そんなことが出来るならとうの昔にやってるよ、軍事力も経済力もサバニアの方がはるかに上だ。なにより身体能力が違う。」

大好きな兄に言われたのでは反論できない、しばらく逡巡したのち

「そうだ!だったら私じゃなくてもいるじゃない!役立たずが一人」

と、嬉々として話し出す。

「ヴァル兄さんでいいじゃない。Ωなんだから、ケモノの子だって産めるでしょ。それくらいの役にたってほしいわ」

フレデリックはそうまくしたてるブリジットをさえぎり

「何を言ってる!ヴァレリーはわたしが」

「あらやだ、兄様までヴァル兄さんのあのフェロモンにあてられてるわけ?お父様も兄様もあの親子に」

そこまで言ったところで王とフレデリックが同時に

「言い過ぎだ!」と、ぴしゃりと言葉をさえぎる。

さらにフレデリックは静かに

「ブリジット、言っていいことと悪いことがある。一国の王女ならそれくらいのたしなみを持て」

静かに低く話し、ちょっと見ただけでは穏やかな雰囲気だが妹であるブリジットには兄がどれほど怒りを内に秘めているのかわかった。

言いすぎて怒らせてしまったと思っても謝ることをしらないブリジットは

「とにかくケモノと結婚なんて絶対に嫌!」

と、言い放つと同時に執務室の扉が勢いよく開け放たれた。

「あなた!どういうことですの?!」

と王妃がどかどかと音を立てて入ってくる。

このがさつさがブリジットに遺伝したのかもしれないと我が母親ながらうんざりしながらその所作を覚めた目で見ながら父がヴァレリーの母に癒しを求めたのもうなずける。

「はぁ」王は一つため息をつき

「騒がしいぞ、何の用だ。ここは執務室だぞ」

王の言葉も聞こえないふうに王妃が

「ブリジットのことです。あら、ブリジットも来ていたのね」

そういってブリジットをだきよせ髪をなでながら

「ブリジットをエクセリアに渡すなんてそんなこと許せません」

王はまたもや「はあぁ」と大きくため息をつき

「そうやっていつまでも現実から目をそらすのはやめなさい。」

「今、エクセリアからの助けがなければこの国は亡びる」

フレデリックはその言葉を引き継ぎ

「エクセリアは大国だ、むしろ王妃になるのだしエクセリアはブリジットを優遇して第一王妃として迎えてくれると約束してくれているんだ」

「そんなこと・・」わかってますと言おうとした王妃をさえぎり

「だから先ほど素敵な提案をしたのよお母様」

「あら、なにかしら?」

「ヴァル兄様を嫁がせればいいと進言しました。」

ヴァレリーの母親を快く思っていない王妃は満面の笑みとなり

「すばらしいわ」

「でしょ」

「どうせこの国に居てもずっと塔に閉じ込められるのならエクセリアに嫁げば塔からも解放され大国で悠々と暮らすことができますわね」

「わたくしずっとあの子が不憫に思ってましたから、ちょうどよかったじゃないですか」

と、白々しく言う母親に対してフレデリックはあわてて

「いや、ヴァレリーはわたしが・・」

と言いかけたところで王がさえぎる

「たしかに、ヴァレリーがよいかもしれない。エクセリアの王子という身分も保証され優遇してもらえるだろう。」

「いやしかし、それでは」

フレデリックも引き下がらない。

「フレデリック、もしお前がヴァレリーを番(つがい)にしたとしても妃としては認めることは出来ない、それならエクセリアに行かせる方があの子も幸せだろう」

「そうよ、兄様!ヴァル兄さんに嫁いでもらいましょう」

「しかし王!」

あわてたフレデリックは“父君”と呼んでいたのが“王”となるほど気が動転していた。

「フレデリック、この話はおしまいだ。エクセリアにはヴァレリーを嫁がせる」

「「まあ、それは素敵!!」」

王妃とブリジットの声が重なる。

うつむき静かに怒りをこらえるフレデリックをよそに

「ただエクセリアには王女を嫁がせると伝えてある。そこをどうするかだ」

「そんなのは何も言うことはないんじゃない?」

「ヴァル兄さんを送りこんじゃえば向こうもそうそう騒ぎ立てることは無いと思うし、向こうでお兄様に頑張ってもらえばいいじゃない」

「う・・・む」

しばらく考え込んでから

「そうするしかないか」

「ヴァレリーにも急ぎ伝えねば、エクセリアの使者が今週中にも到着する」

じっと話を聞いていたフレデリックは一つ息を吐いてから

「その役目はわたしがやります」

そういって執務室を出ていった。

王はフレデリックのうなだれた背中を見送りながら入り口にいる兵士に目配せをした。